● MESSAGE FROM SKMT
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人為的に死を延ばしている感じがする。
医療科学が進んでいなかった100年前であれば、
ぼくは死んでいるわけだから、それが生物として寿命だったのだ。
後は科学技術のおかげで人工的に死が先延ばしされているわけだ。
もちろん嬉しいという気持ちと、
これは本当ではないという気持ちが交錯する。
「なぜ自然にまかせず、治療することを選んだか」
これが80歳だったら、もう充分生きた、毎日体のあちこちも痛いし、
そろそろいいかな、と思うかもしれない(思わないかもしれない)。
しかし、62歳の今、少しボケてガタはきているが、
癌以外はそこそこ健康だし頭もはたらいている。
創作意欲も、他のことへの好奇心も山ほどある。
そして何より、これ以上自分にはできないというほど、まだ曲を書いていない。 これ以上は無理というほど、音楽をやっていない。
やり残したことが多すぎる。ここで死ぬのはあまりにも残念だ。
一方で「生きる」ということについては、充分楽しんだと思う。
墓にお金はもっていけないので、お金は生きているうちに使ってしまい、
財産を残そうなんていう考えは捨てた。
持ち物はなるべく少なく身軽にし、行きたい所に行き、
自分に少し余裕があれば、友達に美味しいものをふるまい、
好きなものを食べ、お酒をなめる。
大好きな人たちと楽しい時間を過ごし、彼らの笑い顔を見る。
これ以上の贅沢を望めるか。
ゴダールの新作「Adieu au Langage」を三度見る。
3Dを使いこれほど実験的かつ誰もやったことのないことに
挑戦している83歳。老いてますます前衛的。
何という人だろう。
坂本龍一
2014 1112
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2014 年 11 月 13 日